文庫になったら、
買いに行け。

『ブレイン・ヴァレー 上/下』
瀬名秀明 角川書店 ¥1400

 一瞬、やな予感はしたのさ。だって、「ブレイン・ヴァレー」だよ。このべったべたなタイトル。でも買ったさ。だって、面白かったもの、前作は。待ってたんだもの、第二作。見ちゃったんだもの、発売日前日に、中吊り。
 ふう。そして悲しい。むしょうにかなしい。どうなってんだよ、瀬名。いけてないよ。これ。
 とにかく、こんだけ専門的な分野を背景に、こんだけ学術用語をちりばませて、これだけ読みやすいものを書けるというのは、まさに秀逸と言う外ない。彼以外にこれを成せるものは、そうはいないだろう。
 が、しかし。新しみが、まるでない。意外性も、まるで足りない。前作の『パラサイト・イヴ』は、そのタイトルから最高だった。引力があった。内容は第一級のエンタテインメントであり、そして何より新しかった。なのになあ。なんでかなあ。
 上巻はまだ良かった。ディティールは不敵に面白く、良質なのだ。興味を引きつける単語・伏線の数々(まあこの時点でも押しつけがましい展開もなくはなかったが)。しかし下巻は不安で渦巻いていた。おいおい、このまま進んでって、どう収束させようっていうんだ。
 そして。物語は未消化に終りを迎える。あああ、そんなばかな。ううう、こんな終りって‥‥
 テーマがこなし切れていないのだ。そして、エンタテインメントに徹し切っていないのだ。欲がでたか、瀬名。焦ったのか、瀬名。
 もう一度読み返したら、別の楽しみ方が発見できるかもしれない。そんな風に私は苛立ちを紛らわせる。不完全燃焼の二千九百円の出費は、貧乏学生に重傷を負わせた。しかし重傷を負わされようと『パラサイト・イヴ』を創りだしたあんたは間違いなく凄い奴だ。だから次こそ頼むよ、瀬名。

(アジサシ朔)


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