コスモスに君と…
“Silent Running”について



 私があの異常アニメ(?)『伝説巨神イデオン』の異常なまでのフリークであることは、私と前のバンド「MILK」のギター、有木氏との共同制作を基本とした「うっちょっち究極プロジェクト」2ndテープ『さみしぐれ』のミニ・コミを見て頂ければ明らかであるが、この「イデオン」に登場するホワイト・ベース‥‥もといソロ・シップの中にバカでかいドームの森があるという設定を覚えているお方は読者の中にどの程度いるのだろうか?
 97年に刊行された『別冊宝島・このアニメがすごい!』の中の「アニメ史上最大の問題作『伝説巨神イデオン』とは何か?」(文・中島紳介)というコラムでは、いわゆる「もとネタ」として『禁断の惑星』『2001年・宇宙の旅』、光瀬龍の『たそがれに還る』『百億の昼と千億の夜』などの作品が紹介されているのだが、この「ドームの森」のもとネタも挙げられている。それが『2001年〜』や『未知との遭遇』の特殊技術、『ブレインストーム』の監督を努めたダグラス・トランブルの1971年作品『サイレント・ランニング』だ。
 しかし、この映画、国内ではテレビでしか公開されず、『ブレインストーム』以前にトランブルが演出に携わった処女作でありながら、85年にビデオ・ソフトになって以来、現在まで新版が出ていない(つまり1万円以上するソフトのまま)という幻の作品なのである。ということで、この埋もれていた傑作を紹介することにしよう。



 2001年、地球は完全に緑を失った。地上の温度はどこも24℃、経済は安定し、全く失業もなく、人類の科学が全てを制圧した姿であった。しかし、アメリカは地球再緑化計画を打ち立て、人工の森林を持つドームを搭載させた宇宙ロケットを打ち上げ、宇宙での緑の復活を試みた。が、理由も不明瞭なままこの計画は中止、全てのドームは破棄されることになった。
 バレーフォージ号の乗組員であるフリーマン・ローウェルは、この計画に乗り気ではなかった他の三人の乗組員とは常に対立し、自然の存在の重要さを説いていた人物であった。それ故にこの計画の中止を知り、唖然とする。そして、彼の育ててきた森のあるドームを投棄し破壊しようとする乗組員の一人ウルフを殺害し、更に別のドームに爆弾を仕掛けにいった二人、バーカーとキーナンもドームごと切り離し爆死させてしまう。
 「この森を破壊するつもりか!!」
 ローウェルは命令違反と知りつつも、自分の森を守るためにバークシャー号のアンダーソン指令に嘘の通信を入れ、土星の裏側の夜の宇宙から外輪の北東の方向へ向かっていく。この状態ならば、バークシャーからの捜索も不可能な領域へ逃れられるからだ。しかし、土星の輪の磁気嵐の中でロボット、ドローン三号を甲板上で失ってしまう。残った一号、二号をそれぞれデューイ、ヒューイと名付け、共同で作業を行なうことにするローウェル。しかし、三人の仲間を殺した良心への呵責とその孤独感は大きかった。そんな中、デューイ達へポーカーの出来るプログラムを施したローウェルは、彼等の中に愛着を見出していく。
 原因も不明なまま森の植物が次々と枯れていく事実に慄然とし焦るローウェルは、ある時ヒューイを車で突き飛ばしてしまう。何とか修理をしたものの完全な状態にまでは戻せなかった‥‥。そして何処からか無線が入る。何とバークシャーからの通信ではないか‥‥。「何故捜したのです‥‥!」直ちにドームを破棄しろとの命令が下されたが、ただ爆破するのには周りがあまりに暗いとアンダーソンは言う。その言葉にローウェルは、森の枯渇の原因を見出した。太陽光が足りないのだ。人工のライトを森に照らしたローウェルは、デューイに後の森の世話を全て任せるとドームを切り離した。
 「子供の頃、空のビンに手紙を入れて、名前と住所を書いてビンを海に流したっけ。もしや誰かが拾ってくれると‥‥。」
 傷を負ったヒューイと共にバレーフォージに残り、バークシャーのドッキングを前にして核爆弾のスイッチを押すローウェル。‥‥光ぼうが広がる。そして、その彼方には、いつしか人が失ってしまった緑豊かな森の自然を一台の、いや一人のロボットが育てている姿があった。



 前半は、自然を否定するシステム化された人間達との議論や彼らを怒りのあまり殺してしまう主人公という演出が、画面を多少派手なものにしているが、いわゆる宇宙モノにありがちなバイオレンスではない。そして後半に至っては、主人公と人間よりも人間的なロボット達との触れ合いを通じて、この作品のメイン・テーマである人間が自然と共存していく優しさなどが宇宙ロケットに取り付けられたドーム内の森という異様な舞台の上で語られていく(『ブレード・ランナー』の設定にも影響している?)。
 この一見アンバランスでつかみどころのない画面作りは、一般に(特に後半が)地味だと言われがちだが、今見ても斬新なアイディアで、「イデオン」でも感じた異様さを(それが実写であるために)よりリアルな感触で受けることが出来たし、何よりも宇宙SFモノの硬質なニオイがしないのが不思議なほどだ(それが端的に表われているのが、オープニングの花、カタツムリ、カメ、カエルなどの生物の生き生きとした映像と、挿入歌を歌うフォーク・シンガーの歌姫、ジョーン・バエズの歌声である)。
 確かにところどころ雑だなと思える演出や、カメラ・ワークなども見受けられるが、 SF映画という一つの壁をファンタジックな映像で表現して一般レベルにまで突き抜けさせることに成功した『E.T.』のように、この『サイレント・ランニング』もSFファン以外の人々にも「面白い」と思わせる要素が点在している。また、現在のような急進的な情報過剰な時代において、そのレイドバックした全体のムードは、例えるなら森林浴(超死語!!)を体験しているかのようである。

 そういった意味でも、ぜひ一度ご覧になっていただきたいマイナー傑作の1つなのだが、探してみると古くからあるレンタル・ビデオ店なら現在でもかなり置いてあるし、手っ取り早く詳しい情報を知りたい場合は「SILENT RUNNING」という海外のサイトが便利だ。他の関連サイトもだいたいリンクされているし、最も内容が充実しているのはココだろう。ちなみに「メイキング・オブ・サイレント・ランニング」というアイテムも紹介されている。
 あ、あと『イデオン』もそうだが、この森のドームの形状は『イデオン』に続く富野由悠季のロボット・アニメ『戦闘メカ・ザブングル』のイノセントのドームのデザインにも影響を与えており、当時「あっ、コレってアレのパクリじゃん」と思った人は相当の人だろうと思う‥‥。また、上の飴屋さんのイラストに『天空の城ラピュタ』のイメージがじゃまをする‥‥とあるが、確かにあの作品の墓地を守るロボットや、ラストで飛んでいく城はかなりイメージ的に近いものがあるかもしれない(‥‥とか言いつつ、「ラピュタ」は見たことがなかったので、急遽レンタルで借りて見たのだが‥‥)。

(亜蝶琶蝶 こと 藤井宏治)


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