『恐怖劇場アンバランス』の世界
(第4回)
「死を予告する女」
夜の運命(とき)を司る蛇
(前半)



 「アンバランス」の本放映時には、青島幸男の解説が入った。これは再放映では確認出来ないが、オープニング・タイトルの直前に毎回その回のハイライト・シーンをバックに「心臓の弱い方、お一人でご覧になる方は、この『恐怖劇場アンバランス』はご遠慮下さい。」のナレーションが流れるという部分はカットされていない。
 さて第二話だが、この冒頭の部分、いつもとは少し趣を異にしているのだ。ハイライト・シーンではなく、本編への導入という形をとっている。
 瀕死の娘の前で神か仏に祈る母親‥‥。「助けて下さいお願いです。神様、この子の命が助かるならどうなっても構いません。何でも差し上げます。私の命でも何でも‥‥。」その背後には笑みを浮かべる黒衣の女が‥‥。それはやがて訪れる悪夢への布石であった‥‥。

 作詞家の坂巻豊は、レコーディングを終えての帰宅途中のタクシーの中で、輸送中の南米産の蛇がケースごと盗まれ逃げたというニュースの話題を運転手から聞かされる。そして部屋のドアを開けようとした時、蛇‥‥なのか、細い尾のようなものが部屋へ忍び込んだ。しかし、中には自分の物ではないアクセサリーのチェインが転がっているだけだ‥‥。
 シャワーを浴びようと蛇口を捻ると、鏡に見知らぬ女がソファに佇んでいる‥‥! 明晩十二時十三分に坂巻が死ぬと宣告する女に彼は怒り、部屋を出ていきつけのパブ“サン・レモ”に赴くが、そこにもその女が‥‥。しかも新しく入った店の娘だという。場所を移し、作曲家・久保のいるクラブへ‥‥。そこにもその女はいた! しかも、レコーディング後に赤坂でスカウトした娘だと久保は言うのだ。歌う女の姿に坂巻は魅入られ、その夜を共にする。その肌は異様に冷たかった‥‥。

 翌日、娘の入院する病院で妻に対して、自分の望まない娘を生んで自分を家庭へ引き戻そうとするためにあの女を雇って脅しているのだろうと迫る坂巻。妻はその女の存在を知る由もなかったが、坂巻が病院を出るとまたあの女が現れた。怒った坂巻はついに路上で走る車に女を突き飛ばすが、車の走り去った後に彼女の遺体は無かった。消えたのだ。
 恐れ、狼狽しながら久保の家へやって来た坂巻に久保は酒を飲ませて寝かすが、その異常さにレコード会社の部長を呼んで様子を見させる。二人は“サン・レモ”に彼を連れて行くが、ママから例の新人の娘の住所と電話番号を聞き出した坂巻は、その番号どおりに電話をし、更に久保もスカウトした娘にダイヤルを回した。すると同じ様にあの女が歌っているのだった。では、その住所には‥‥?! 三人がその場所に見たものは墓地であった‥‥!!

 坂巻のマンションへ戻った三人‥‥インターホンが鳴る。戦慄が走るが、ドアの外に現れたのは坂巻の妻であった。彼女も例の女の事を知りたがって来たというのだが‥‥。近づくその「死の時刻」を前にしてラジオのニュースで、例の蛇が車に轢かれたという情報を耳にして安堵する一同‥‥。
 そしてあと十分と迫った時、妻は昨夜娘の容体が非常に悪化した時に自分の命でも何でも奪ってくれと祈った事を気にしていると告白した。迷信じみた事だと笑う久保達だが、坂巻はふと妻の胸元を見て愕然とする。
 そこにはあの夜、女を抱いた時につけた坂巻の歯形が浮かんでいたのだ! 妻は不気味に笑う‥‥そして、鏡にはあの女の姿が‥‥!! 恐怖に後ずさりする坂巻は壁にぶつかり、飾ってあった蝋燭立てがのど元に突き刺さった‥‥!
 十二時十三分‥‥妻の姿も消え去り、電話が鳴る。久保は受話器から聞こえる女の歌声に、ただ恐怖するのみであった‥‥。

(次回「後半」へつづく:藤井 宏治)


連載トビラへ