『恐怖劇場アンバランス』の世界
(第5回)
「死を予告する女」
夜の運命(とき)を司る蛇
(後半)



 キャスティングに関してだが、坂巻役に現在は舞台演出で有名な蜷川幸雄があたっているが、これが‥‥若い!! また久保役に財津一郎、レコード会社部長役に名古屋章と豪華だが、財津氏のコミカルさは非常に愉快である。
 しかし特筆すべきは謎の女役の楠侑子で、独特の怪しさと微妙な表情の揺らぎに垣間見せる狂気のような異様な存在感は、話が単純なミステリーである分、軽くなってしまう可能性のある画面作りに不気味な暗さを加えており、特に歌うシーンはその表情の妖しさに背筋が凍る程である。極端な話、彼女の存在が、この回の90%の恐怖感を作り出しているのではないかと思える程である。『アンバランス』のテーマである精神的な不気味さ、わけのわからないものに対する恐怖感を映像化する際の重要な役回りを見事に演じてくれている。
 監督には、この後『八月の濡れた砂』で一世を風靡することになる藤田敏八があたり、脚本は『ウルトラQ』の最終話「あけてくれ!」などで有名な女流の小山内美江子が担当している。

 いかにも制作初期の作品であり、精神的なレベルの恐怖という部分は少ない。また、坂巻の部屋のセットは制作第一話である「墓場から呪いの手」から度々使用されていて、これも制作初期の作品であることをうかがわせる。
 全編ミステリアスなムードが支配していて、特に前半の久保のいるクラブにまで出現する女という場面は視聴者に冷や汗をかかせるには十分な演出であるが、クライマックスに近づく部分でラジオを流すシーンは何となくスリラー、ファンタジーの世界の雰囲気からリアルな現実の空気に戻るような世界観の逆転が感じられ、このシーンだけ妙に浮いてしまっているような感もある。
 もちろんそれは、直後の妻の独白のシーンで再び恐怖感を煽るBGMが流れ始めるまで視聴者へ安堵感を与えるためではあるのだが、少し緊迫感が薄くなりすぎたような気もする。トータルでは、初期の佳作というべきであろう。「恐怖劇場」のコンセプトを見事に体現している。

 さて最後に全く文字通り「蛇足」だが、冒頭シーンで新人女性歌手のレコーディング風景が流れるが、これがまさに時代‥‥というか演歌にロック(G.S?)のビートとはこういうものを言うんだろうなあ。
 歌詞もスネアの音に代表されるドラムの音も、ハッキリ言って爆笑モノです(いや、失礼か‥‥)。歌っている女性のパンタロンにベルトの丸いバックル、フリルのついたシャツというのも‥‥まあ、あと二、三十年したら今のビジュアル系もこんな感じで語られるんだろうけどね‥‥。

(つづく:藤井 宏治)


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