『恐怖劇場アンバランス』の世界
(第6回)
「殺しのゲーム」
慈悲の殺人
(前半)



 この回は、以前EMOTIONからビデオ・ソフト化された時、一話の「木乃伊の恋」と共に第1巻目として発売されたという記憶がある(85年頃)。『アンバランス』の場合、全話LD化はされたもののビデオで出たのは数本で、現在レンタル・ショップにもほとんど置いていないので、もし見つけたらもうけもんなのである。だが、この3話は、1巻目に収録するだけの佳作である。

 妻を2年前に亡くした会社員の岡田正男は、いきつけの病院の看護婦に呼び止められ、二人で食事をしようと誘われる。そして、それを背後から見つめる男が‥‥。
 豪華なシャンデリアの飾られたレストランで、看護婦は岡田が自分の病気に対して心配しているのだろうと言い、その病名を告げる。‥‥胃ガンである。岡田自身、それには相当前から気付いていたものの、事実を知り動揺する。看護婦は岡田の力になりたいと言うのだが、彼は拒絶する。
 街を行く岡田の背後には、またあの男が。そして、岡田は死神と一緒に歩く自分自身に対しての恐怖の内に、駅の階段にはがれ落ちているポスターに赤ん坊の写真を見つけて涙を流してしまう。‥‥「死ぬのは嫌だ! 助けて‥‥!!」
 そんな彼を見ていた若い娘は、GoGo喫茶へと連れていくが、岡田はその場を立ち去る。が、あの岡田の後ろを追っていた謎の男が彼を呼び止める。男は、鈴木正助と書かれた名刺を差し出し、岡田と話をしたいといい、どう調べたのか岡田の会社の部署や、妻に先立たれた事などを知っていた。更に彼は、岡田の胃ガンのことも知っていたのだ‥‥。

 岡田は、鈴木が「殺しのゲーム」を行なって死の恐怖を忘れるという計画を聞いて驚愕する。鈴木もまた肺ガンであり、岡田よりも早く死ぬであろう身であることを語った。二人でお互いに殺しの計画を立てて、その緊張感を“楽しむ”殺しのゲーム。それは、もしどちらかが殺人を犯して死刑を宣告されても既に1年後か半年後に死を約束されている身にとっては何も怖くはないという“特権”付きだと鈴木は言い、さらにお互いの貯金100万を賞金として200万使い切り遊び切って死ぬ人生はどうだ?と持ちかけてくるのだった。
「私には人は殺せない」‥‥そんなゲームは出来ないと拒否をつづける岡田に、鈴木は「誰だって人は殺せる」と強く言うのだった。
 そんな折、医者から病院に岡田の兄だという男が現れたと聞いた岡田は、自分には兄などいないからそれは何かの間違いだと言うが、実はそれは会社の上司であり、彼の病気を危惧して課長の座から降ろすために病院にその病状を調べに来ていたのだ。死ぬまで仕事に打ち込んでガンの事を忘れようとしていた岡田は、休職を言い渡され絶望するが、そんな時看護婦の竹村明子が岡田のマンションを訪れた。二人は同棲生活を始めることとなった。

 ある日、突然窓ガラスが飛んで来た石に割られた! そして鈴木からの電話が‥‥。彼は「殺しのゲーム」を実行するという。戦慄する岡田は、マンションの非常階段に塗られた油の罠に襲われた。奴は本気なのだ‥‥。苦悩する岡田は前のGoGo喫茶へ行き、例の娘とその男に事情を話すが、逆に翻弄される。港で彼らの車に追いかけられた岡田だが、逆に車は海へと転落してしまう。‥‥「私じゃない‥‥私が殺したんじゃない!!」

 鈴木は、自分の貯金の貸し金庫の鍵を送ってきた。岡田にも同じ事をして、うまく自分を殺すように促してきた。‥‥警察に混乱した頭で事を説明する岡田は、何も信用されず、途方に暮れて帰途につく。そんな岡田の前に、異様に血色の良い鈴木が現れた。
 岡田は自分の部屋へ彼を通し、彼の驚くべき事実を聞く。肺ガンは誤診であり、自分は健康そのもの、ゲームはやめだ、だから鍵を返して欲しい。また、自分の自殺用ピストルも見せ、自分では引き金を引けなかったとも告白した。さらには明子は自分の妻で、この計画の協力者であったということも‥‥。
 岡田の中を激しい憎しみの炎がかけめぐった。ピストルを握り、鈴木に銃口を向ける岡田‥‥
「貴方を殺したら、楽しいだろうね。死刑を怖がらずに人を殺せるのは私だけなんだ‥‥! 貴方が教えてくれたんだよ。」銃声‥‥!!
 しかし、鈴木は笑っている。「‥‥フフフ、ありがとう。どうです。貴方にだって人は殺せるじゃありませんか。」事切れる鈴木。その時、岡田はデスマスクのように無表情で鈴木を見つめているだけだった。

(次回「後半」へつづく:藤井 宏治)


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