飄々とした反骨オヤジ・神津善行の
東洋楽器復古作戦

芸大創始者の悪口を言えるのは私だけ

 「六華仙」という古楽器を演奏するグループのコンサートを観てきた。「六華仙」は、93年に作曲家の神津善行によって集められた「世界に誇れる東洋楽器の復興」を目指す女性8人のグループで、世界各地で精力的に演奏活動を行なっている。
 神津善行というと、以前ほどメディアへの露出が多くなく、最近は有名人の葬式に必ず現れるオバサンのダンナというファミリーイメージか、もちょっとマシでも、どちらかというと体制的な印象があったりするわけだが、ホントのところは、昔と変わらず、ひねくれたヘンなおっさんである。このコンサートを観て、その思いを新たにした。
 まず、「六華仙」結成に至る裏の歴史が興味深い。「世界に誇れる東洋楽器の復興」というのが、このグループの目的ではあるが、なぜそれをやるのが、神津氏なのか。それは、音楽家としての職能意識であるのはもちろんだが、もう一つには、「血」という要因がある。
 西洋音楽が日本に輸入されたのは、明治中期。音楽取調べ掛りが渡米したことによる。これにより、芸大の前身校が設立され、洋楽楽器製作会社が創業された。と同時に洋楽崇拝が始まり、日本古来の音楽が廃れていくことになる。
 神津氏は、80年頃、世界各地の民族音楽の調査をした頃から、日本が自国の音楽を初等教育で教えない唯一の国であることに疑問を持つ。そして、明治の音楽取調べ掛りが、この現状をつくった張本人だと気づく。その音楽取調べ掛りの名は、伊沢修二、そしてもう一人、神津専三郎だ。そう、後者は、神津善行の先祖だ。
 しかし、専三郎は、芸大創始者として、奉られている。善行氏いわく「専三郎の悪口を言えるのは、私しかいない(笑)」。コンサートのMCでの飄々としたこの発言に、何とも言われぬ含みを感じ、親近感が湧いた。
 ちなみに善行氏はこの十年、早稲田大学理工学部の特別研究員として「植物発信音」の研究も行なっているらしい。植物が発している高周波を採取した、その発信音は、可聴域に変調され、六華仙のCDにも使用されている。
 このようなエピソードを聞くと、NHK御用達的なうざったいファミリーイメージが変わってこないだろうか。

六華仙サウンドは、あなどれないぞ

 さて、六華仙のコンサートの方だが、これが面白かった。楽器編成は、薩摩琵琶×2をフロントに、中国琵琶、揚琴、二十五絃箏、コルネット・ヴァイオリンといった、日本に入ってきたものの定着しなかった古楽器が絡み、マリンバと六華仙専用特殊キーボードがサポートする。
 なかでも面白かったのは、コルネット・ヴァイオリン。これは、サイレント・ヴァイオリンにラッパのついたもので、何とも言われない哀愁漂う音がする。古い蓄音機から聴こえるヴァイオリンの音というと、そのまんまやないか!とツッコミが入りそうな気もするが‥‥。
 あと、中国琵琶の奏者は、本職は三味線という中国人女性の費堅蓉さんなのだが、ときおり見せるアグレッシブな超絶テクニックの早弾きが、強烈にカッコよかった。
 彼らの持ち味が発揮されるのは、やはり「チゴイネル・ワイゼン」をはじめとするメジャーな西洋音楽だ。この楽器編成ならではの新鮮な響きが明瞭になる。また、アラビア音階を使用した「トルコ風トルコ行進曲」(モーツァルト)は、いまにもレッドスネーク・カモンな、全身脱力ものだ。
 また、日本の曲も当たり前には演奏しない。「おてもやん考察」は、歌詞を現代語訳し、この民謡に隠されたスパイ戦の真実を白日の下に曝す(笑)。
 ただし、善行氏指揮のもと、六華仙とサポートストリングスによる劇番に乗せ、中村メイコ、カンナ&はづき母娘が名声優ぶりを発揮する音楽物語「傷ついた渡り鳥」は、いかにもな「お涙頂戴」的出し物で、これが2部構成のコンサートの後半のほとんどを占めるというのは、ちょっとツライものがあった。ただし、これはこのコンサートの放映権を持つNHKからの要請と言うことで、致し方ないといったところか。
 さらに、原則的には演奏しないことになっている歌謡曲も日本人聴衆へのファンサービスとしてつけ加えられていた。その曲がこともあろうに「昭和枯れすすき」。まぁこれ見よがしなアレンジを聴くと、逆にこの選曲にも、彼らの意地とちょっとした悪意が感じられて、こちらもほくそ笑んでしまったりして‥‥。

お薦めアルバムとTV放映

 なお、六華仙のCDは、私が確認しただけでも4作出ている。今回の演目の主な作品が収録されている「ROKKASEN FIRST」は、お薦めだ。また、私が観たのとほぼ同内容のステージが、来年の2月27日にNHKでTV放映されるそうなので、ご興味のある方は是非。

(蓮見季人)


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