目標捕捉! 見失うな!
川崎郷太 を追え!!

他の監督は、怒らないんだろうか?
 いらぬ心配だとは思うのだが『ウルトラマンダイナ』の現場の人間関係は、大丈夫なのだろうか? というのも、実相寺昭雄監督や川崎郷太監督の演出回の画のできが、他の監督の演出回とぜんぜん違うのだ。役者の動かし方や全体の流れなど「演出面」で演出家の力量の差がでるのは、まぁいい。しかし、1カット1カットの画面に、全スタッフの気合いの差があからさまに出ているのだ。他の監督、怒らないんだろうか?
 僕は、そもそも『ウルトラマン』というものが嫌いではない。『ダイナ』もそれなりには楽しんで観てきた。ただし、「毎回欠かさず」というのは、『ティガ』以来の惰性であることも事実だ。番組開始当初は、比較しないようにしようとは思いつつも、『ティガ』との温度差に寒い思いをしてきた。けれど、1クール、2クールと回を重ねるうちに、『ダイナ』の温度設定に身体が馴染んできた。それなりに楽しめるエピソードもあったしね。ところが、である。
 まず、第38話「怪獣戯曲」。『ティガ』に続き、実相寺昭雄の登板である。『ティガ』ではコダイスタッフまる掛かりの「実相寺組」だったわけだが、今回は通常スタッフのなかにコダイ選抜部隊が加わったような形態。たぶん特撮部分は、通常スタッフだったんじゃないだろうか? それなのに、上がった画がぜんぜん違う。「実相寺さんと仕事ができて嬉しいんだい!」ってなノリノリの映像なのだ。
 そして2週おいての第40話「ぼくたちの地球が見たい」と第41話「うたかたの空夢」、川崎郷太見参!である。もぉ、ぜ〜〜〜んぜん、チ・ガ・ウ。雑誌等で取材された現場の雰囲気も、まさに「川崎祭り」状態である。「帰ってきたカワサキグミ」なんてロゴまで作られてしまうほどに‥‥。ホントに、他の監督、怒らないんだろうか?

視聴者の目に訴えた稀代の映像作家
 ここで、川崎監督について、簡単に紹介しておこう。1961年生まれ、日芸映画学科卒後、木下プロ入社。5〜6年でフリーとなり、ハリウッドに自費留学。帰国後、コダイに関わり、93年『電光超人グリッドマン』で商業作品演出デビュー。96年『ウルトラマンティガ』の監督ローテーション入り。当初は本編演出のみだったが、特技監督も兼ねるようになり、第28話「うたかたの…」では、脚本・監督・特技監督の3役をこなす。この「うたかたの…」が、賛否両論の嵐を呼び、第39話「拝啓ウルトラマン様」で、その存在感を不動のものとする。しかし‥‥。この回を最後に、『ティガ』の監督ローテーションから姿を消す。
 番組終了前後の遅れてきたメディアの「ティガブーム」。なかでも話題の焦点は、なんといっても川崎作品だった。一躍、川崎郷太はカルトヒーローに仕立て上げられた。もちろん、『ティガ』をリアルタイムで見ていた視聴者の間では、放映中から川崎監督は注目の的だった。メディアの後追いでしかスターが生まれ難い昨今、川崎郷太は視聴者が自らの目で発掘した、近年稀なヒーローなのだ。
 しかし、『ティガ』を途中降板した後、彼に目立った活動はなかった。ほとんど唯一の作品はNHK『天才てれびくん』内のトホホな帯コーナーへの参加のみ。当然、『ダイナ』での川崎待望論は後を断たなかった。そして、『ティガ』の降板から、約1年。今回の『ダイナ』参加となり、その実力のほどを見せつけることとなる。

制作と現場の体温差
 なぜ、1年の間、彼は『ウルトラ』を外れていたのか? 言葉を選んで表現するならば、制作スタッフとの体温差の違いというところだろうか。演出家としては、まだ若手の川崎監督。古い体質の制作スタッフは、その突出した実力を認めたくないようだ。「うたかたの空夢」の怒涛の特撮シーンの完成度に対しても、「たまたまでしょ?」とあしらったというのだ。「たまたま」かどうかは、これまで『ティガ』や『ダイナ』を見た視聴者なら、当然答えはだせる。これは紛れもない「実力」だ。
 制作スタッフの姿勢がどうあれ、後を断たなかった川崎待望論。その熱がもっとも高かったのは、現場スタッフだったのかもしれない。それは、「帰ってきたカワサキグミ」のロゴと、そして完成した映像作品にも伺える。『ダイナ』への登板も、周囲の並々ならぬ説得があったようだ。そして、周囲の期待以上の作品を提示した川崎監督。しかし、制作スタッフは‥‥。
 『ティガ』の勢いを実現したのは、もちろん川崎監督のみの力ではない。脚本家も含めた現場スタッフが、しのぎを削りあって、はじめて現実のものとなったはずだ。ただし、その底上げにもっとも関与したのが川崎郷太であったことは想像に難くない。しかし、制作スタッフの体質は、そのような内部での競争を欲していないようだ。

『ウルトラ』に興味のない人も要注目
 7月16日。『ダイナ』の後番組、『ウルトラマンガイア』の制作発表が行なわれた。成りゆき上『ティガ』のメインライターのような立場になり、『ダイナ』にはいっさいタッチしなかった、売れっ子脚本家・小中千昭氏が、全面的に舵を執る意欲作のように見受けられる。しかし、現状では、恐らく川崎郷太は参画しないだろう。小中氏の描く物語には期待できるが、制作スタッフの体質が今のままなら、映像面では、どうか? これは、始まってみなければわからない。
 川崎郷太は、「ドラマが作りたいんだ」と言った。これは決して「ジャリ番」を拒否しているわけではない。対象が誰であれ、求められる「ドラマ」がある。彼には、堅実かつ大胆にそれが創れる。一向に次回作は決まらないようだけど‥‥。ただし、この名前を覚えていて損はないはずだ。「ウルトラマン」に興味のない方々も、今後「川崎郷太」のクレジットを見かけたら、ぜひその作品に注目して欲しい。日本にも、これほどの「ドラマ演出家」がいるのだと嬉しくなるはずだ。

(蓮見季人)


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