樋淑み〜はの「サイエンスってば」
地質年代からみた地球と人類
氷河時代の先っぽで
〜1/460,000のバランス〜



 現代が氷河時代であると聞いたら、多くの人が「エッ?」と思うのではないでしょうか。けれど、これは本当のことです。
 「就職氷河期」とか「愛の氷河期」とか、そういうたとえ話しをしているのではありません。地質学的に、現代も氷河時代の真っただ中なのだということです。
 賢明な読者なら、ここで「氷河時代」と「氷河期」を混在させるレトリックに気づくかもしれません。正確には、現代は氷河時代の中の「間氷期」なのです。

 もともと火の玉みたいなものだった地球が今のような状態になるまで、つまり地上があるていど安定するまでの長〜い間、火山の噴火やらなんやらで、この世は灼熱でした。空は厚い雲に覆われ、それはそれはモンモンとした日々だったでしょう。それが、雨降って地固まるのごとく、だんだんと落ちついて、クールダウンされてきたのです。
 もちろん、その変化は一直線ではなく、揺れをもちながら進んできました。その揺れの寒冷な側を「氷河時代」といい、その内とくに寒い時期を「氷期」、その間の涼しい時期を「間氷期」と呼ぶわけです。

 氷河時代は、先カンブリア時代から現在までに少なくとも三度は訪れたと考えられています。けれど、古い時代のことはよくわかっていないので、ふつう「氷河時代」といえば、一番最近、というか現代も含む第四紀をさします。第四紀は200万年くらい前に始まったとされ、5〜10万年くらいごとに氷期と間氷期を繰り返してきました。
 氷河時代というと、氷に閉ざされた生きるのに辛い時代を想像しがちですが、氷期でも氷で覆われるのは高山と極地のみで、地上全体の約1割くらい。今より気温が下がったとしても、地球規模で見れば、海水面が下がり陸地が増え、現在の「常夏」の地域が「常春」になるという、ある意味でイメージとは正反対の時代なのです(緯度、高度の高い地域はもちろん大打撃ですが)。

 そして現代は、約1万年前から続く「間氷期=完新世(沖積世)」の先っぽにいます。この1万年間は、ほぼ大きな気候変動がなく過ぎていきました。
 そんな安定した時代だったからこそ、人類の進化もありえたのだといえるでしょう。涼しいからこそ、頭も身体も働くのです。というより、私たちはこの200万年の「氷河時代」に適応して進化し、その最後の1万年の「間氷期」のなかで、こんにちの文明を築いてきたのです。

 私たちが子供の頃に恐れられていたのは、この間氷期の終わり、つまり「氷期=氷河期」が訪れることでした。しかし、今、それとは正反対のことが起ころうとしています。
 怖れていたことの正反対‥‥、一見、良さ気なようで、46万分の1のバランスの上では、同じか、それ以上に恐ろしいことが‥‥。

 その正体「地球温暖化現象」については、またいづれとしとうございます。

(樋淑 瑞葉)


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