「何考えてんだか」は、
感動の言葉

ムーンライダーズ「月面賛歌ツアー」
1998.07.24-25 赤坂ブリッツ

やっぱりテクノ
 赤坂の夜。横長のステージに浮かぶ、巨大な月のレリーフ。林立する蛍光管の柱が点り出すと、6つの青い宇宙服が、ゆっくりと、ゆっくりとぎこちない歩みで現れる。各々の手には、トランシーバー、旗、望遠鏡、そして、得体の知れない物体が‥‥。
 エレクトリックなビートが響き出すと、頭でっかちな青い宇宙服は、ロボットのように、器械体操のように動き出す。解体された「気球と通信」。曲が進むにつれ、そのダンスは、エスカレートしていく。‥‥か、可愛すぎる!
 ムーンライダーズ、月面賛歌ツアーは、こうして幕を開けた。クラフトワークの来日公演に、素直すぎるほど素直な反応を示した(笑)「KEICHI」こと鈴木慶一の演出に、文句もいわずに(言ったかも知れないが)つき合う5人のおじさん。しかし、これがキマッテしまうところがライダーズ。「やっぱりライダーズには、テクノなことしてて欲しい!」と感動してしまう。
 さらに驚いたことに、フードを脱ぐと、6人全員の髪が、白、金、茶、メッシュ‥‥に染め抜かれている。か、かしぶちさんまで‥‥! まったく、不惑を過ぎて、何やってんでしょ、この人たちは‥‥。でも、しっかりと似合ってしまうトコが、あなどれない。

ハードロックもボサ・ノヴァも
 しかし、テクノコーナーは、ここまで。宇宙服(実はレベルA対応の科学工場用スーツ)を脱ぎ捨て、大ロック大会が始まる。結成20周年を過ぎて、にわかに格段の進歩を遂げた(笑)演奏力で、ハードロックから労組ソングまで、新旧硬軟取り混ぜたクレイジーなライヴが進む。
 やけに下手(しもて)に寄ったステージセッティングだなと思っていると、フロントメンバー3人が、上手の空きスペースに向かう。そこは、アコースティックセットのスペースだったようだ。しっとりした、年齢相応の大人の時間がはじまる。とくに春のアコースティックライヴから演奏されている「歩いて、車で、スプートニクで」のボサ・ノヴァ・ヴァージョンなど、まさに「名演」と呼ぶに相応しい。
 これだけ多様な音楽スタイルを、ひとつのバンドカラーとして、聴衆に納得させてしまう。それも、すべて高水準のパフォーマンスとして。若い者には、そうそう真似のできない、かといって、普通のオヤジには、なおさら真似できない、孤高のポジション。ムーンライダーズ、ここにあり。である。
 おっと、忘れちゃいけない。2日目の最終アンコール。盛装に身を包んだ6人のジェントルマンが、異常にスカシて登場。客席に散らばったと思うと、各々ひとりの女性客をパートナーに、ステージに上がる。あまりにも唐突な社交ダンスコーナー。
 戸惑うパートナーたち。しばらく踊っていたと思うと、いきなり音楽が途切れ、6人のジェントルマンがバタッと床に倒れる。さらに戸惑うパートナーたち。音楽が再開すると、何ごともなかったかのようにスッくと立ち上がり、ダンス再開。そして、また音楽が止まると‥‥。これが数度くり返され、ようやくパートナーたちは客席に帰される。‥‥ただひとりを除いて。
 ステージ上にただひとり取り残された女性に、会場中から賞賛の笑いと同情の拍手が沸き起こり、終演。
 ‥‥、まったく‥‥、何考えてんだか‥‥。

(樋淑瑞葉)


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