やせ薬の恐怖

最近の学会時の発表で、俗に言う[やせ薬]は心臓の弁膜症を引き起こしやすいとの報告があったそうだ。身体ばかりではなく、内蔵までも痩せてしまうのか。なかには脳の機能をつかさどるセロトニン(血管収縮物質)まで減少させてしまうものもあるそうな。
怖い。

DATE1997.6.13


 「日本人の老人性痴呆症は、ほぼ脳の血管損傷からくるものらしいけど、痩せてしまって脳の機能が低下して、20歳のうら若き女性が、さっき食べてしまった食事のことを忘れてしまったり、徘徊しはじめたりしたら、そりゃちょっとね。しかし、最近の若者って、光物で全身を着飾り、夜の街でみんなで○○○座りし、わけのわかんない話をしている様は、C級のSF映画で未来の痴呆性老人を観ているような気がする」
と、呆れ顔の一子。
 肩越しに彼女は低い声でささやいた。
 「その内、ステキなスーツの男性がね『奥さん、これは即効性のある痩せ薬なんですよ。ここだけの話、まだ希少価値が高くて凄い値段するんですが、奥さんなら定価の30%OFFにしてあげる。実は、このタブレットの主原料は土星からとりよせた一級品! 我が社と違って他社は、スペースシャトルがないから無理なんですよ。いかがです。スリムになった奥さんは素敵だろうな』なんてセールスされ、ン百万する金額で買わされて心臓が悪くなって、脳の機能が低下していくんだわ。」
 フフフ ははははと、お腹を抱え大笑いする一子。顔は心なしか赤みがさし、目は充血している。
 それから彼女は、痩身について延々と話し続けていたらしい。乾ききった唇からは、うっすらと血が滲み出ていた。
 日が暮れたので、私はカーテンを閉めた。すると、しなびた風船のように横になる一子。
 今まで話したことすらすっかり忘れ、彼女は病室が暗くなると、ひっそりともとの180歳の老人へと戻る。
 今やわずかな小遣い銭で買える土星の痩身薬も、昔はかなり副作用があったらしい。

DATE2300.10.5
(トロピカル子)


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