珍名につき


 「栫井」と書いて「かこい」と読む。私の苗字で、字も読みも珍しい方だと思う。でも、面倒なんだこれが。

 学生の頃は学年が替わって、教科の先生が一巡するあいだ出席で「これ何て読むんだ?」って聞かれたし、今でも銀行なんかで読めずに「そこの赤い服着た方」とか呼ばれる。
  初対面の人は必ず「どこの出身ですか?」みたいなこと聞いてくる。「父が鹿児島出身です」と答えれば「鹿児島の方じゃ結構ある名前なんですか?」って(生まれは東京だし、なぜ「父が」と言ってると思ってんの)。

 「意味は何ですか」とかも聞かれる(じゃ「田中」とか「佐藤」とかの意味知ってんの? 聞くの、意味を? 意味しらないけど聞いたことありません、私は)。
 鬱陶しいので「知りません」って答えてたら、「自分の苗字の意味も知らないのか」とか怒る年寄りがいるし。どうしろってーの。
 ちょっとした写真の焼き増しや、クリーニング出す度に店員にまで聞かれる。そんな関係の人間になんで苗字のいわれを教えなきゃいけないの。

 その一方で、「カタカナで書いといてくれ」と言ってるのにしつこく聞くから「木へんに存在の『そん』、それに井戸の『い』です」と漢字を教えてるのに「囲井」「栫囲」「樽井」のどれかに間違ってる。人の話聞けよ。最後なんか名前替わってるじゃないか、どんな『存在』なんだッ。

 向こうは喋るネタとして格好の材料なんだろうけど、こっちはそんな会話をもう何百回となくしてきてるんで、うんざり。と怒ってたら、「木へんに存在の『ざい』」の字を書いた奴がいやがった。もう漢字でさえない‥‥。

(栫井 潔)


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