都市社会楽のココロ

Sail on

 目を覚ませよ 肌寒い冬の朝
 曇りガラスを拭って 珈琲を
 昨日と同じ朝が 今日のポストに響く前に
 この部屋の鍵を掛けて

 子供の頃 憧れた大人たち
 今の僕を重ね合わせてみる
 昨日まで見た小さな夢 アルバムに綴じて
 この町を離れる僕

 夜明けの港は 雨上がりのさざめき
 男たちを鴎の群れが 見送るように舞うよ
 So long 何も告げずに旅立つよ
 Sail on 想い出はトランクの底 いつの日か会おう

 忘れるために乗り込んだわけじゃない
 失したものを もう一度知りたいだけ
 砕ける飛沫を浴びて 光る男たちの姿
 この海原を航路にかえて

 嵐を越えて 微笑みあう笑顔に
 僕はいつか 生きていくことの喜びを知る だから
 So long 些細なことに迷う日々
 Sail on 船は空と海の間 どこまでも進む

 So long 思い悩んだ 都市の日々
 Sail on 想い出はトランクの底
 So long 何も告げずに旅立つよ
 Sail on いつかまた会うその時は 君にも告げよう

(C)hasmi toshihito 1990


 1989年の終わり頃、音楽雑誌にメンバー募集告知を出している人たちに集中的に連絡をとった時期がある。その中で「詞を書いてくれる人募集」という告知を出していた奥村邦夫さんから送られてきた曲用に書いた作品。その後、奥村さんとは連絡が途絶え、録音物として残すことがためらわれていることもあり、1992年5月30日の『スノッブマガジン』創刊ライブで演奏のみ。
 デモテープの雰囲気が高橋幸宏の「SAILOR」(詞:鈴木博文/『ONCE A FOOL…』収録)に近かったこともあり、かなり即断で「船乗り」をモチーフに選んだという記憶がある。発表している作品群の中では異色だが、未発表作品ではかなり使っているモチーフで、実は結構好きなジャンルなんです。こういうスカした翻訳調も(笑)。ただ、ちょっと趣味的すぎて、人様に提供するには冒険し過ぎかなぁ、とも思ったのだけれど‥‥、案の定、ボツというか、何の返答もなかった。
 他人の曲への後づけということもあり、まずパーツを作り、それらをパズルのように組み合わせていくという、職能的というかワープロ的な手法で書いた、おそらく初作品でもある。実際には、ワープロは使っていなかったけれど‥‥。それまでは、頭から順に書いていき、一曲通した後で修正、というパターンがほとんどだったが、「作詞家として関わるんだ」という気持ちが強かったのだと思う。それにしては‥‥(以下略)。

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