業あリっ!
『業人(WAZABITO)』日本テレビ

 あれは11月の事だったでしょうか。土曜日の夜、ダンナと二人でぼやぼやしていると、かなり遅い時間になってしまう事がよくありました。遅くなったからもう寝ようね、だけどその前にテレビをちょっと、という風にテレビのチャンネルをザッピングしていると必ず見ていた番組があったのです。
 「業人(WAZABITO)」。初めて見た時は、職人さんが桶を作っていました。次に見た時は、書道の筆を作っていました。その次に見た時は、日本刀を作っていました‥‥。つまりは、日本の伝統工芸を紹介する番組であります。

 番組そのものは非常に淡白な造りになっています。カメラは、作業を続ける職人さんの手元のアップ、または職人さんの真剣な表情を撮り続けます。あとは、職人さん本人がとつとつと、あるいはナレーションのお姉さんが淡々と、作業の内容について解説するだけです。これが、いい。深夜、布団の中から眺める映像として、実に心が和むのです。
 まずは、音。職人さんのぼそぼそとした人柄のにじみ出る声もいいですが、桶ならかんなで木を削る音や、たがを嵌める槌の音、筆なら不揃いな毛を毛抜きで外す音や、筆の根元を糸できりりと縛る音、日本刀なら熱い鉄をたたく音や、砥石と刀の擦れる音。そんな一見無機質に思える音が、夜の闇に融けて不思議と暖かく感じられます。
 そして映像。作業の多くは同じ事の繰り返しです。しかし職人さんの滑らかな手さばき、熟練の業は、さりげなく軽やかで、つい見とれてしまうのです。

 残念ながら、この番組はNTVクリアビジョンという放送枠の中で11月に1ヶ月だけ放送された番組でした。もったいない。この番組は、きんと冷えた冬の夜にこそ似合うのに。穏やかな、でも張り詰めた静かな雰囲気が、冬の冷たく澄んだ空気に似合うのです。ちょっと襟を正したくなる、そんな厳しい空気も漂わせた番組ですが、職人さんの手の中でできあがっていく工芸品から伝わる人の手のぬくもりが、疲れた心をほっとさせる、気持ちのいい番組でした。
 かなり実験的な内容だったのは認めます。しかし、寝しなに騒々しいバラエティを見るよりずっと心が和むのに、と私は思います。またいつか復活することを待ち望みながら、布団の中で寒い夜を過ごす今日このごろなのでした。

(ヤマモトキョーコ)


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