思い起こせば5年前。興味本位で手にしたCDから、すべては始まった。新譜は日本盤を待てずに輸入盤を買い、さらにボーナストラックと解説つきの日本盤も買う。日本未発売の旧譜も輸入盤で揃えた。一人のアーティストに、ここまで夢中になったことはなかった。そのアーティストの名は、王菲(フェイ・ウォン)。
その初来日公演が、1999年3月、日本武道館で2日間、開かれた。僕はこの日を待っていた。いや、この日が来ることさえ、かつては夢にも想っていなかったというのが正直なところだ。アルバムごとに、目を見張る成長を遂げ、いつしか世界的スーパースターの仲間入りを果たした彼女だが、5年前は、まだ香港歌謡界の異端児でしかなかったのだから。
何はともあれ、発売開始から2時間で完売した(追加公演は7割の入りだったらしいけど(^_^;)この武道館公演のレビューを始めよう。また、今回は「特集」として、この5年間に僕が書いてきた、彼女に関する文章もまとめてみたので、ご興味のある方は、ぜひ。いかに僕が彼女にぞっこんだったかがお分かりいただけるだろう。(笑)
開演予定時間を5分ほど回った頃、まだ客電も明るいなか、ステージにスモークが立ち始める。しばらくすると客電が落ち暗転。15分過ぎ、最新アルバム『唱遊(チャン・ヨウ)』のオープニング曲「感情生活(ラヴ・ライフ)」の重々しいイントロが鳴り響く。オープニングにふさわしいカラフルなライティングに照らし出され、白のロングスカートにキャミソールと黒いレースのシャツをまとったフェイ・ウォンが登場。足元は裸足だ(これが僕の大好きなフェイフェイだ!)。
3曲続けざまに演奏された後、「みなさんこんばんは。きょうはどうもありがとう。さいごまでごゆっくり。」と日本語のMC。うまい。
約2時間、全25曲のステージで、3度の衣装替え。衣装はすべて白を基調とし黒をアクセントとしたツートンで統一。ポスターやイメージキャラクターのハリネズミくんのカラフルさとはうって変わった抑えたトーンの衣装と同様、ステージングも香港の歌手としては地味な部類に入るもので、この辺に物足りなさを感じたファンもいたようだ。
しかし、彼女の最大の魅力である「唄声」を日本の聴衆に伝える上では、正しい選択だったと思う。地味とは言っても、ステージ上のスクリーンにプロモーションビデオをはじめとしたさまざまな映像が写し出されたり、炎や風をイメージした吹き流しが立ち上ったり、左右、中央とアリーナに突き出した花道に設けられたセリを効果的に使ったりと、目にも飽きない演出が施されていた。
もっとも盛り上がったのは、やはり映画『恋する惑星』の主題歌「夢中人」(正確には北京語版の「争脱」)で、この曲では花道でフェイフェイお得意のぴょこぴょこ踊りも披露。その立ち位置は僕の席の真正面で、ちょうど真横から観れたのだけれど‥‥むちゃくちゃ可愛くて、これが観れただけでも幸せ)。あと曲間で観客からかけられた声に応える「fn?」「ha?」の力の抜け切った声。‥‥これこれ!これが聴きたかったッ!(笑)
某ゲームソフトのテーマ曲(笑)が浮いていたのは、まぁ大人の事情とやつで置いとくとして、‥‥と言いたいところだけど、僕の友人はこのプロモーション臭さがかなり鼻についてしまったみたい(このゲームおよび、そこでの曲の使われ方、僕の周りではかなり評判悪い。僕はゲームやらないので良くわからないけど)。
ただ、演奏する側としては、この曲はやはり番外編的な扱いだと思う(思いたい)。曲順的にもフェイ・ウォンのコンサートでは恒例となっているという英語曲コーナーのひとつという位置付けだったし。ちなみに、もうひとつの英語曲は、クイーンの「BOHEMIAN RHAPSODY」。ゲストの女声5人組コーラスとの掛け合いが面白かった。
そして、フェイ's バラードの名曲「我願意」が感動的に歌い上げられて、2度目のMC「つぎはさいごのきょくです。どうもほんとにありがとうございました。」もちろん、これも日本語。
うむを言わさぬ客電&場内アナウンス攻撃で、余韻を断ち切られての終演は寂しいものがあったけれど、アンコールなしでも充分満足できるボリュームだったと思う。初期のヒット曲が聴けなかったのが残念だけど、まぁ、恒に前進するアーティストのファンの宿命だからね‥‥。
なにはともあれ、いま、目の前にフェイフェイがいて、歌を唄っているという現実に何度か目頭が熱くなってしまいましたとさ(もお、ただのミーハー(笑))。
(ピーター・レン)