『恋人はウルトラマン』
〜 Take Me higher 〜

◆なんの因果かとっくに卒業したつもりの「ウルトラマン」にはまった。そのはまった原因の「ウルトラマンティガ」についての、作品論はここでは触れない。類書はけっこう出てるし、WEB上やBBSでも硬軟取り混ぜて、語られている。それに何といっても、まだ私の中で熱が冷めていない。だから、いずれにしても冷静な作品論は無理だ。ここでは、登場人物の「想い」がどれほど熱かったかだけを語りたい。

◆いやまず登場人物の前に、現場で作られていたスタッフとキャストすべてに心から感謝をささげよう。かれらの志の高さ、まなざしの優しさ、周到な気配り、そして熱い情熱がなかったら、この「奇跡のドラマ」は生まれ得なかっただろう。

◆そして、彼らの作り上げた虚構の人物たち・・・・キャラクター。かつての「ウルトラ・シリーズ」に優るとも劣らない、血肉を備え、自分と一体化できるほどに「リアル」に感じられる、その「キャラクター」。ティガを見ていて、キャラクターの立った芝居の数々には何度も落涙した。30越えた大のおとなを泣かせるんだから、これはすごい。もっとも、「あんな程度で泣くのか」というつむじ曲がりも居るかもしれないが。(芝居というものはある部分から先は「典型」でよい、ティガはあの種の番組に必要なだけ「類型」から抜け出していたと思う。だが、これは別のことだ)

◆22話「霧が来る」では、GUTSのホリイ隊員が、<霧の中から現れる怪物に、世界が滅ぼされる>と弱音を吐く女性ミチルに対し、滅ぼされたりしないと言い切る。なぜ、と問われ、「GUTSがおるからや」−−−この想いの熱さ。ウルトラマンがいるからではなく、GUTSがいるから、世界は滅びない。この瞬間、ヒーローはホリイ隊員であってティガではない。ホリイはこの時救ったミチルと、のちのエピソードで結婚する。この、シリーズ内での連続性のようなものもティガの魅力のひとつだ。

◆ホリイとデコボコ・コンビのシンジョウも、29話「青い夜の記憶」で、訳も分からず異星人の少女の心を慰めることになり、「俺は役に立てたのか?」「はい」「ならいいんだ」と余韻の残る名シーンを演じる。また41話「宇宙からの友」では、宇宙生命に寄生された親友と熱い友情のドラマがシリーズの雰囲気を盛り上げる。

◆エピソードを書き出すと、きりがないのだが、ティガの主人公ダイゴは、当然ウルトラマンなわけで、そこには「人間でありながら、ウルトラマンでもある」ことの様々な矛盾がたびたび顔を出している。なぜウルトラマンは戦うのか。でも「この人たちを守るためなのか・・・?仲間だから・・・?みんなが好きだから!!」、これだけを取りあえずのエクスキューズに命を懸けて戦う「青年ウルトラマン」像が現代にマッチしていて斬新だ。

◆そして、レナ。GUTSエースパイロットにして、ダイゴに恋するひとりの女性でもある。これまた第一線で戦う事と、恋する女性であることは、なかなか両立しずらい。しかし、相手が人間であれば、まだいい。共に戦う喜びがある。人と人、同じ土俵のうえで、共闘することもできる。ところが・・・レナの想い人は、ウルトラマンだった。

◆ここで悩みが始まる。ウルトラマンとして、GUTSなどの人間とは別の次元で怪獣と戦う、ダイゴ。レナはかなり早い段階から、ダイゴがティガでは?と疑っていたようだが、しだいにその想いは確信に高まっていく。正式な恋人関係(という言い方もヘンだけれど)ならば、問い詰める事も出来たかもしれない。だが、最終話近くなるまで、ダイゴとの関係は「かなり仲のよいボーイフレンド」。レナの想いだけが募っていく。

◆レナは好きなのにハッキリとは伝えられない。ダイゴはなにやら思い悩んでいる。「滅びの闇」。それが人類に定められた、未来。3000万年前と同じ、人類に突きつけられた「運命」のやいば。悩むダイゴと、そのダイゴを案じて苦しむレナ。<なぜ、ひとりで悩むのか。どうして自分に打ち明けてくれないのか>。煮詰まったレナの想いは、50話「もっと高く!〜Take Me Higher!〜」で爆発する。

◆怪獣ゾイガーを追う戦闘機スノーホワイトのコクピットのなかで、ウルトラ・シリーズの歴史に燦然と残る名場面。レナとダイゴの相聞歌。どうしてひとりで抱え込んで戦うのか?レナはなじり、訴える。「・・・あたしだって光になりたいよ・・・光になって戦う」。ウルトラマンと同じ土俵に登って戦おうとした、史上はじめてのヒロイン。義務じゃない、人間としてやれる事をやりたいだけ。それがダイゴの答え。そしてレナは「あたし、いま後ろ見えない・・・だから、いいよ」−−−彼女は人間として、ティガであるダイゴと共に戦う。

◆光になる−−−最終話で示された、その意味。それは「誰もが光になれる」そういうことだった。そして光は、ウルトラマンの形で怪獣に立ち向かう。ここでは、怪獣や宇宙人といった物理的脅威であるよりも、敵は自分が受け入れる事の出来ない理不尽な運命か。レナが、世界中の子供たちが、ウルトラマンという形の光として戦ったのだ。作品中繰り返される「ウルトラマンは負けない」−−−そのセリフは、「わたしは負けない」と言っているように聞こえる。

◆「戦うことにもし理由があるとするならね、それは誰かを守るためだと思う」ティガの光を受け継いで戦う「ウルトラマンダイナ」でのセリフだ。想いはすでに受け継がれている。大事なものを守りたい。運命に負けたくない。勇気をもって、自分の心の闇−−−目の前の困難から逃げようとする恐れと戦えば、その心の光が、あなたをウルトラマンにする。

◆もし、あなたの恋人がウルトラマンだったなら。悩む事はない。恐れる事もない。運命に立ち向かう、あなたこそがウルトラマンなのだから。共に、手を携え、光とともに未来を切り開いていけばいい。かつて子供だった、すべてのウルトラマンたちよ。闇も光も、われらとともにある。

(ada-ky <silver bullet>)


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