'80s BOYの記録(6)
80年代前半の男性アイドル歌手再考

〜わるがきトリオの「後輩」たち〜

 アイドル歌手養成校としての期待が高まる桜中学では、レコード会社各社の青田買いが始まった。もちろん、80年4月に入学した1年B組の生徒たちも例外ではない。
 しかし、このクラスはとうていアイドル的資質の感じられる生徒はいなかった‥‥にもかかわらず、ほとんどノルマを果たすかのごとく、非常的手段に出る。ボス的存在であった康平こと斉藤康彦をいきなり飛び級させ、81年1月に曙高校へ編入させてしまうのだ。曙高校は『ただいま放課後パート3』の舞台。隼高校から舞台は変われど、たのきんの進学枠だ。
 そして、81年2月5日。劇団若草の子役俳優・斉藤は、この番組の主題歌「もどかしさもSOMETIME」でビクターより歌手デビューを果たし、いきおいでオリコン最高位50位、3.3万枚を売り上げる。この数字は、彼の資質・実力を考えたら上出来だろう。6月21日に「U(ユー)」、7月5日にアルバム『青春シャワー』を出すも、パワーの衰えを見せない先輩や続々登場する後続の影に、すっかり埋もれてしまったのも仕方ない。ちなみに『1年B組 新八先生』の同級生で唯一生き残っているのが、見栄晴だというのが、すべてを語っていると言えよう。

 桜中学の1年B組はこの通りだったが、曙高校の同級生は、それなりの出世をした。それが、堤大二郎だ。堤は、『ただいま放課後』で俳優デビュー後、4月にサンデーズに加入。4月23日に「燃えてパッション」でラジオ・シティより歌手デビューした。
 この思いっきり暑苦しいデビューシングルが最高位45位、4.7万枚を売上げたのを頂点に「恋人宣言」「花はおそかった」「ぎりぎり愛して」と下降線を辿り、歌手としてはめぼしい実績を残せなかったが、後年、堅実に俳優としてのキャリアを積み、撮影中のアクシデントなども乗り越え、時代劇を中心に一定の地位を築いていった。

 そして、本命の『金八先生(II)』。80年度の3年B組には、このキャスティング以前から世界的に顔の知られた少年が在籍していた。「竹の子族のヒロくん」こと、沖田浩之だ。
 雑誌『プチセブン』に紹介されたことから一躍有名になった彼を巡って、渡辺プロダクションやジャニーズ事務所も含めた10社を超える芸能プロダクションによる争奪戦が起こる。端から芸能界入りなど考えておらず、数々の誘いをかわし続けた沖田だったが「仕事を強制させない」の条件で80年5月、スターダスト・プロモーションへ。8月末、初のオーディションに合格し80年10月、『金八先生(II)』で芸能界デビューとなった。
 そして、進学希望の沖田の意志とは無関係に、歌手デビューの話も水面下で進行していた。生徒役から突出した存在をつくらないことを理由に、放映中の歌手デビューは厳禁とされるのが同番組の方針だったが、年明け早々から発売日を伏せたキャンペーンを開始、最終回一週間前の81年3月21日、ファンを焦らせに焦らせたデビューシングル「E気持ち」がCBSソニーより発売される。
 どう考えたって歌う本人にとって恥ずかしくないわけがない「E気持ち」は、初登場25位、2週目で8位とベスト10入りを果たし、17.8万枚(『芸能人という生き方』によると実売40万枚らしい)を記録するスマッシュヒットとなる。以後の紆余曲折は、項を改めたい。

 80年度の3年B組には、もうひとりのアイドル候補生、ひかる一平が在籍していた。ジャニーズ事務所所属の彼は、血統書付きの「たのきんフォロアー」といえたのだが、「わるがき」全盛期にこの気弱なキャラ。事務所側も心得たもので、たのきんとの比較を極力避けるように、当初、対外的には所属事務所をあいまいにする戦略を採っていたほどらしい。桜中学卒業後、歌手デビューに向けて明るく見えるようにヘアデザイナーと研究を重ね、サイパンで日焼けをしたりと、イメージチェンジのためにかなりの努力をしたともいうのだが‥‥。
 81年4月よりサンデーズに加入。5月21日に「青空オンリー・ユー」でフォーライフよりレコードデビュー(ちなみにデュランデュランのデビューシングル「プラネットアース」と同日)。この曲は最高位19位、6.1万枚を記録。事務所のプッシュも強く、サンデーズ同期の堤の記録は軽々と越すが、続く「可愛いデビル」「ブルー・セブンティーン」では下降線の堤にさえ負けてしまう。やはり「大二郎君とはサンデーズの仲間だし、ヒロくんとは同級生だから‥‥」などと気弱な発言をしてしまう「好青年」には、そもそも新人賞レースなど縁がなかったのかも知れない。
 82年10月『必殺仕事人III』の西順之助というハマリ役を獲て後、俳優として活動。85年6月公開の『必殺II!ブラウン館の怪物たち』では沖田と、87年の『必殺IV 恨みはらします』では堤との共演も果たしている。

主な参考文献:
『オリコン』(1980.6-1981.8)
『別冊宝島396 芸能人という生き方』(1998)

(ピーター・レン)


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この連載を始めるきっかけとなった「歌手・沖田浩之」再評価について、想いを同じにする方々と交流を持つことになった。そして、沖田浩之CD化への願いをもってキャンペーンを開始。そして、その願いはついに現実のものとなった。詳しくは「沖田浩之CD化キャンペーン」へ。


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