接近遭遇の神髄

 今回も紙面をいただけましたので、2回に亘る接近遭遇のお話の神髄に迫ってまいりたいと思います。ことの始まりは、単なるひらめきからだったのでした。
 96年の9月に突然発売された「JAPANトリビュートアルバム」に土屋さんが1曲参加していて、久しぶりのソロだったので喜んでいたら、これに続いて10月に日清パワーステーションでイベントライブが行なわれました。このときのライブのインフォメーションには、土屋さんの名前はなく、出演するかどうかはまったく分かりませんでした。それ以前の問題として、このライブにはSUGIZOをはじめとするビジュアル系がわんさか出るにも関わらず、ライブハウスでやるなんてチケットが手に入らないではないかと心配していると、この辺りから運がいいというか神のお導きというか、気持ち悪いほどスムーズにことが進むのでした。うちの奥さんがタワーレコードに勤めている関係で、おかげさまで関係者用のチケットが手に入ったのです。そして、ライブ直前になって、土屋さんの出演が確認できたのです。

 久しぶりのライブなのでわくわくしてその日を迎えたのですが、うちの奥さんが出かけに花束をプレゼントしなくちゃと言っていたのだけれど(うちの奥さんも凄いファンです)ロンドンから来日しているのに花束は持ち帰れないなぁと思って玄関先でふと、あれだったら持ち帰って、その後も使えるだろうと思い、その辺りにあったビニールや段ボールで梱包して電車の中で取り扱い説明を書いたのでした。これが自作のリングモジュレーションとトレモロだったのです。そして、入場の際に受付の人に土屋さんに渡してくださるようにお願いして、その日はライブを楽しんだのでした。うちの奥さんに感謝感謝。
 その後、土屋さんにきちんと渡してくれたかなぁとか、ちゃんとロンドンまで持ち帰ったかなぁとか心配していると、数日後、とうとうロンドンの土屋さんから、なんとFAXが送られてきたのでした。しかしまだ、これは序の口だったのです。このリングモジュレーターが原因で物語は、エスカレートしていくのでした。

 リングモジュレーターというのは、ギターなどにつなげると変な音程になってしまうエフェクターで、その昔、ほんの小数のメーカーから発売されていたものですが、あまりにもマニアックだったため、現在は作られていなくて、昔の中古品も見たことがないほどなのです。要するに、現在では自作するしかないものなのです。そこで、自分で使用するために数年前に作ったもの(中古!)を少しはお役に立てるかなぁと思ってプレゼントしたのでした。この時が、まさに波長が一致してしまった瞬間だったのでしょう。土屋さんもその時ちょうど探していたものなのでした。そして、その後発売された「Mod's Fish」に使われ、さらに今年8月に行なわれたライブでもギターやテルミンにつなげてつまみをクイクイ回していたりして、僕はもちろん感激したけれど、何か凄いことになってしまったので、複雑な気持ちでもありました。
 その後、「サウンド&レコーディングマガジン」「ギターマガジン」「GIG」各誌にこのリングモジュレーターのことが書かれていて、写真まであって、またもや感激しましたが、僕のことを電子工学の会社に勤めているとか、電子工学を研究している人とか、土屋さんの頭の中で勝手に話が膨らんでいるようで、ちょっと笑ってしまいました。

 因みにロンドンに会いに行ったときは、新作の自作のチューブビブラートを持っていきました。これも「Mod's Fish」に使われています。さらに東京でお会いしたときは、ステレオ仕様のリングモジュレーターをお渡ししています。これは、土屋さんからのリクエスト品で、今度発売予定のソロアルバムに使うとおっしゃっていました。
 まぁ要するに、そういう理由がないとお会いしてくれないということか。涙。SUGIZO曰く「音楽のことに関してはめちゃくちゃポジティブな人です」。その通りでした。今度は何を作ろうかなぁと思案に暮れる毎日です。

(高野 敏:「ばるんが通信」No.23,1997.12.31)


IN LONDON JUN 1997][×2 IN TOKYO][接近遭遇の神髄]

目次に戻る
土屋昌巳WEBへ