『P.S. Dear Berangere』視聴会録
出席者:井上竜夫佐久間充蓮見季人

「Waiting days again」
●(イントロを聴いて)これ大変だったでしょ。
●ここだけで5時間かかった。
●この曲は、非常に難産だった。というのも、まず元のアレンジがいま聴いてもあまりに斬新すぎて‥‥。新たなカタチで復活させるのが困難だったんだ。元バージョン、聴かなきゃ良かったと思った。
●前とはもう、ジャンルが違うね。
●メロディラインも若干変えちゃってるしね。
●ワルツになったから。
●このカタチが、一番この曲が望んでいるカタチだと思う。弦アレンジは、蓮見いずしては作れなかった。
●前のは、ニューミュージックっぽかったじゃない?
●ニューミュージックの皮を被ったヘビーメタルだろ、やっぱ。
●前からイントロは、バロックっぽくなかった?
●詞は変わってないよね。
●ちょっと変えた、後半部分。現在形だったのが過去形になってる。誰も気づかないだろうけど。

「無神経なマドモアゼル」
●どう?
●ちょっと変な雰囲気だよね。
●こういう風に変わるとは、思わなかったね、作曲者として。
●何かちょっと‥‥、ムード盛り下がっちゃう(笑)。前のは、ロックンロールだったのに。
●でもこの詞だからね。元詞の「キングコングのように抱き締めて」は、ロックンロールでよかったけどさ。とにかく情けない曲にしたかったんだよ。
●前のは素直すぎた。そういった意味では、今回のは満足している。マヌケでとっても好き。
●サビ前のベースは好きだね。
●これは、明田川さんがつくってきてくれたからね。ほんとに依頼した甲斐があった。
●スパイスになってるね。
●エクセレントだよね。

「あれがあのときのすべて」
●これはもう、当初やりたかったアレンジがそのままできた。
●サビのコードが少し変わったほかは、基本的には同じだよね。
●ブラスのアレンジ力とか、年相応の変化はあるでしょ。
●ナイスミドルな感じ(笑)。
●80年代っぽいとは思うよね。俺が書いた中で、一番キャッチーな曲だと思うよ。
●これは景気いいよ。詞の内容とはウラハラに。ひょっとしたら「自分勝手な勢い」が出てるのかもしれないけど。ちなみに詞もちょっと手直ししました。言葉づかいで気にくわないとこが、いくつかあったから。

「アナン ストリート」
●(イントロのギターソロを聴いて大笑い)何の曲か分らなかった。
●泣いてます。
●このアルバムん中で、一番いいギターソロだよ。自画自賛。
●エンディングで盛り上げようと思っていたらソロの入る予知がなくて、しょーがなしに頭ソロになったという経過を、私は知っている。
●桑名正博(かっこ当時)が出てきそう。
●桑名というのはいいアレかも知れない。当初想定していたトッド・ラングレンっぽくは、ならなかったね。
●最初がいいな、この曲。イントロ、インパクトあるよね、ものスゴク。
●充の間奏ソロも好きだよ。竜夫からは絶対出てこないフレーズでしょ。
●ずっと前(鈴木)政光に言われたんだけど、俺の曲、イントロはいいけど、他はダメだって。
●この詞は、もともとパロディのつもりだったんだよ。だけど井上君のメロディがなんかはまっちゃってて、フェイバリットソングになっちゃった。この手の曲って、大っ嫌いだったんだけど。ここに都市社会楽の萌芽があるのかも知れない。
●実はこれ、四和音で書くための習作だったんだよ。生まれて初めて四和音で書いた曲。
●(A面を聴き終えて)蓮見君のアレンジが意外にシンプルだよね。ソロの反動かな。竜夫君の方が凝ってる。

「ぱらのいあ ぱらだいす」
●(イントロを聴いて)え?何これ。
●もう、わけわかんないでしょ。これでもシンプルっていう?
●涙出た。
●これは、いろんな宗教がぐちゃぐちゃになっている今の宗教界を表現してるんです。
●非常にタイムリー。
●当時、詞を書き替える時、三角関係の歌と宗教の歌の2案あったんだけど、竜夫が「宗教の方」って言ったんだ。
●メロディがだいぶ変わったよね。
●元は「オレンヂのI LOVE YOU」ってラヴソングだったじゃない。それ用のアレンジとこの詞の内容のアレンジとじゃ、必然的に変わるから。もともと変な曲だったけど。
●現時点になって、アイデアとテクニックのバランスが取れてきた。初めて両方の融合ができた気がする。これ、あの時にやってたら絶対ぐちゃぐちゃになって、音になんなかったよ。
●もう、びっくりですね。
●明田川さんのベースもいいよね。「マドモアゼル」より苦労してもらった。
●こうゆう風にしてくださいって言ったら「お前、ほんと好きだなあ」って、呆れられちゃった。当時、僕がやりたかったベース・スタイルだからね。ぷよよ〜んって。
●とりあえず、これが俺の代表曲になるんだよね。何でみんなが好きだって言ってくれるんだか、わかんないんだけど。
●そう言いながら、その後この曲だけは、何バージョンも作ってるじゃない。
●人がいいと言うんだから、いいのに違いない。まあ、これで完成型でしょう。
●といいつつ、ライヴバージョンはぜんぜん違う。

「You can fly!」
●これは井上君が最初に作った曲だし、本人に歌ってもらうつもりだったんだけど、リハーサルで僕が仮歌を歌ったら、それで行こうって言われちゃって。
●井上大輔さんに歌ってほしい。
●この曲は、自己嫌悪の最たるものだね。ほんとは、やりたくなかった。
●一番最初の最初の頃、言ってたよね。お互いに初めて作った曲を持ち寄った時に。「たくさん曲作って、もうあの頃の曲はやりたくないって言えるようになりたい」って。
●え、そんなこと言ってた? よく覚えてんなあ。
●いま思い出したんだよ。
●まあ、このアレンジなら許せるか。リフが恥ずかしかったんだけど。
●前のも良かったと思うよ。
●このリフは、7拍子を待ってたんだよ。前のは何か勢いが止まっちゃう気がしてたんだ。
●これは正解かもしんない。
●あと、前の歌詞が字足らずだったんで、リライトしようとしたらハマっちゃって。ボーカル録りのスタジオまでごちゃごちゃやってて、しょうがないから見切っちゃった。初めてだよ、歌詞を書くのにこんなに悩んだの。それから、一番最初に井上君が書いた詞の一節「道は開けるもの」が復活している。
●復活させなくてもいいのに。
●いや、やっぱり記念すべき処女作だからさ。

「Dear(instrumental)」
●これは、名曲ですよね。
●これも「アナン」と同じで、練習用に作ったような曲なんだよ。
●今でも楽器屋で弾いてるって言ってたじゃない。
●音出し用にね。まぁ、たまにだよ。今回のアレンジで完成型でしょう
●前のはアコースティックだったよね。あれはあれでよかったけど、BGM的なところもあって、ちょっともの足りなかったよね。今度のは凝ってる。面白い。
●前のアレンジが好きだったんだけど、聴き慣れればこれもいいのかな。

「会いたくて(しょうがないよね)」
●新曲です。
●何か売れ線だよね。
●これはずっと前、井上君が「こんなの書いたから、まとめてくれ」って詩を持ってきて、それでずっと温めてあったんだ。そんなの後にも先にもその時だけだからね。本人、全然覚えてないらしいけど。
●まったく覚えてない。
●直筆原稿見せようか?
●いい!(断固拒否)
●まとめる方向としては、アズテックカメラへのオマージュというか、当時の井上君をその後の井上君が回想しているという感じで‥‥
●覚えてないんだから!
●そういうことにしておこう。で、ロディ・フレームの詩の何箇所かを引用してみました。
ほんとは曲もつけてみたんだけど、モータウン+浜田省吾みたいになっちゃって。そんでサビだけ残して共作にしてもらったんだ。

●打ち込みが手間取ったよね。佐久間君のテープを元にして作ってたら、直前になって、サビのメロが違うっていうんだもん。
●あれは、僕の最初のデモテープがラフ過ぎたんだ。面目ない。メロディラインは基本的には充の持ってきたやつだけど、ずいぶん変えちゃったじゃない。もともとどういうイメージだったの?
●Aパートがゲーム音楽で、Bパートがラストエンペラーのテーマっぽいやつ。
●え!
●リズミカルになって、スッキリして、良かったと思うよ。
●あと、これはボーカリスト井上の復権と言えるんじゃない?
●歌うのたいへんだったよなぁ。
●詞とメロディの切れ目が合ってない。これは僕の詞作の特徴なんだからしょーがない。でもキーが、はまってるから声は気持ちよく出てたよね。
●一音上がった時の感じは、非常に好き。あの転調は、うまくいってるでしょ。みんな気がつかないみたい。ディアベラの曲の特徴に、転調しまくってボーカルが辛いというのがあって、あの曲なんだっけ?
●「シンデレラなんかじゃいられない」? 今回入れなかったやつ。
●そう、あれは超難曲。そういう意味では、一番ディアベラらしい曲。
●詞も一番と二番で韻踏んでるしね。

「Waiting days again(rep.)」
●良くできたので、また入れました。
●若干、定位と構成も変わってます。
●素晴らしい。

●では、最後にひとことづつ。
●今回こういう企画を持ちかけられるまでは、ディアベラというのは、終わっていた、というより忘れてた存在なんだけれども、これで息の根が止まったって感じですね。
●これで心置きなく成仏できます。合掌。
●別に、無理に終わらなくたって、いいじゃない。

(1995.9『スノッブマガジン3号』より転載)


【歌詞カード】 【(蛇足)ハスミのゴタク】
蓄音商会