(蛇足)ハスミのゴタク
一枚岩でないバンドの二転三転の作についての四の五の六突き問答

道楽堂がらみの発行物で、頻繁に登場してきた<ディア・ベランジェール>。蓮見のソロ作品では、プロデュースユニット名としてクレジットされてきたが、バンドとしてはどんなものだったのか。1989年4月のライブ以降、活動を休止していたので、ご存知ない方がほとんどだろう(知っていたからといって、何の得にもならないが)。一言でいえば「アイデアはあるけどヘタクソなバンド」だったわけだ。さて、それが何故、今になって作品を発表するのか−−仕掛人・蓮見を問いただした。そのゴタクを聞いてみよう(聞かずともよい)。


なぜ今、ディアベラなのか
 それは一言、「時期がきたから」に他なりません。
 まず、断わっておかなければならない前提は、ディアベラは「解散していなかった」ということです。当時、リーダーの井上君が抜けることになって、残りのメンバー3人で話し合ったんですけど、佐久間君と鈴木君は僕に「全部一任するよ」と言ったんです。今ごろ後悔しているかもしんないけど。
 僕は、その時点の顔ぶれで、納得のいくものができるとは思えなかった。ちょうど他のバンドのライブなんかにも出掛けるようになっていて、遅ればせながら意識がシビアになり始めた頃だったんです。それまでが、ひど過ぎただけなんですけど。だから井上君にも逃げられちゃった。
 だけど、ディアベラという名前でやりたいことは、漠然とあったんです。それで、とりあえず、しばらく凍結させることにしたんです。

やりたいこととは?
「ディア・ベランジェール」というのは井上君がつけた名前で、まぁとくにこれといった意味はなかったんですけど、その説明を受けたときに何かストーリー性があって、そこから勝手にイメージを脹らませてあったんです。音楽がもしダメでも、小説とかそういうカタチでもありかな、ぐらいに思っていたんです。それは、ほんとに漠然としたストーリーだったんですけどね。

それで時期がきたと
 ええ。その後メンバーは、それぞれに音楽活動を続けていって、まぁ当時よりはみんな成長したかな、と。
 当時のテープなんかたまに聞くと、これがひどいもんなんです。だけど、やろうとしていたことは、やっぱり好きなことですからね、愛着もあるわけです。で、今なら当時やりたくてもできなかったことが、ある程度満足のいくレベルでできるだろうと判断したわけです。これは僕の独断ですけどね。

それでは、他のメンバーは?
 去年の夏に、まず井上君にこの企画を話したら、意外なほどあっさり快諾してくれて、次に佐久間君に話したんです。そうしたら「どんな編成でやるのか」と聞かれて、まぁ今回実現したメンバーを考えてると言ったんです。そうしたら「それでディアベラの名前を使う必然性があるのか」とか言われちゃいまして。
 彼にとってのディアベラは、女性ボーカルでドラムが鈴木君でという、バンド名が決定した時のものだったんです。でも僕にとっては、井上君がボーカルになってからのもので、かつメンバー構成より、作品主義だったわけです。とくに引っ掛かったのはドラマーの問題ですね。僕と鈴木君は、もう長いこと交流がないんですけど、佐久間君は今も続いていますから。それも、もっともと言えば、もっともなんです。で、僕は「ベースも変わるんだからいいじゃない」って屁理屈をこねまして。とにかく、僕はディアベラの名前で作品を残したかったから、まぁぎりぎりまで攻防があったわけです。

という意味では、決して一枚岩ではない、と
 それはもう、以前からですね。それは選曲に関しても反映されるんですよ。ディアベラの曲には、時期によっていくつかのパターンがあるんです。まず、女性ボーカルの時の曲。次に、男ボーカル用に詞を書き替えた曲。それから、男ボーカルになってからの曲。あと他に、僕がつくった曲が2曲。
 さっき言ったように、佐久間君にとってのディアベラは、主に女性ボーカルの頃だし、僕のはその後だから相違があって当り前なんです。それから、僕が作った曲を佐久間君は気に入ってくれてるんですけど、それは嬉しいけど、僕はそれも外しちゃった。
 結局、全部、僕のわがままを聞いてもらいました。

ボーカルといえば、井上さんがメインでしたよね。今回はほぼ半々ですけど。
 そう。前は井上君メインで、僕が自分の曲をちょこちょこっとって感じでした。基本的に、僕はボーカリスト・井上のファンなんで、なるべく彼には歌ってほしいんです。最近あいつ歌わなくなっちゃったから。去年の僕のライブで無理やり歌わせたのも、ボーカリスト・井上の復権を目論んでのものだったくらいで。
 で、今回なんですけど、僕もアイデアがあったから、何曲かは歌わせてもらおうとは思ってたんですけど、4.5:2.5くらいで井上を多くしてって。そしたら、あいつ「その逆だ」って言うんです。歌に目覚めた蓮見と、いろんなバンドでサポート役に徹しきってる自分の現在形を反映させるって。
 そんなこんなで二転三転して、ちょうど半々になったわけです。

細かい内容に関しては次ページに譲るとして、全体の感触はどうですか?
 テープに関しては、当時やりたかったことを超えるものができたと思います。ライブに関しては、そりゃもう強力な助っ人に手伝ってもらえますからね。リハ時間はあまりとれなかったけど、とにかく楽しみたいと思います。

(1995.9『スノッブマガジン3号』より転載)


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